矯正早期治療はエビデンスベースドか? 「藁に落とした針を探し出せ」? システマティックレビュー
矯正早期治療はエビデンスベースドか? 「藁に落とした針を探し出せ」? システマティックレビュー
矯正学でも最も論争となる領域の一つに矯正治療タイミングがある。多くの矯正医が「早期治療あるいは抑制矯正」を自分の臨床の中で紹介し始めている。しかしそれはエビデンスに基づいているだろうか?このシステマティックレビューは私たちに早期矯正治療についての良い情報を提供してくれる。
11歳以下の矯正治療はエビデンスに基づいているだろうか?システマティックレビューとメタアナリシスIs orthodontics prior to 11 years of age evidence-based? A systematic review and meta-analysis
- Sunnak, A. Johal, P.S. Fleming
Journal of Dentistry 43 (2015) 477–486
DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.jdent.2015.02.003
LondonにあるQueen Mary大学のチームがこの興味深い臨床的に関連したレビューを作成した。
彼らは何を疑問に思ったか?
イントロで著者らは、早期治療あるいは抑制矯正が更なる治療必要性の減少や発育していく不正咬合の重症度の減少を試みるというコンセプトに基づいているというのが最近のトレンドであると指摘している。常識的に「抑制的」な、という状態は
- 顔面成長の問題
- 犬歯の埋伏
- 叢生の進行
- オーバージェットの改善 である。
このフィロソフィーはアメリカ矯正歯科医会のガイドラインにも反映されている。それはすべての子どもは7~8歳で矯正学的スクリーニングを受けるべきであることを示唆している。しかし、あるスクリーニングが発達上の問題を特定することができたとして、その問題解決のためのどのような治療も有効であることが重要であると我々は考える必要がある。現在、この領域でのエビデンスは欠けており、システマティックレビューを行ったこのチームがこの問題に答えようとした。
彼らの目的は「11歳以下の子どもたちへの矯正的介入の幅とその効果を短期的および長期的に評価すること」であった。
彼らが何をしたか?
彼らは下記のような基準で標準的なシステマティックレビューを行った。
研究デザイン:RCT(ランダム化比較試験)あるいはCCT(非ランダム化比較試験)
参加者:11歳以下の子ども
介入:あらゆる抑制矯正治療
比較対象:未治療群あるいは抑制矯正でないほかの動的介入を受けた参加者
アウトカム:
- 歯列関係の改善
- 歯の位置の変化
- 骨格的不調和の変化
- 二次的アウトカムとして
- 第二期治療の必要度
- 患者満足度
- 治療の期間と過程
- いろんな不具合
- 抜歯の必要度
電子媒体から関連論文を同定し、質的評価を行い、バイアスのリスクが低い試行を含むものだけで、上質なシステマティックレビューを行った。彼らはアウトカムを抽出し、GRADE(訳注:エビデンスの質と推奨の強さを系統的にグレーディングするアプローチ法)を用いてエビデンスの全体的な強さを評価した。
彼らは何を見つけたか?
彼らは20の研究はバイアスリスクが低いと認めた。それらは以下のことに注目していた。
- Ⅱ級とⅢ級不正咬合のための骨格成長の改変の短期的効果
- 前歯部開咬の改善
- 臼歯部交叉咬合の改善
- 叢生を減らすための抑制的抜歯
- 上顎犬歯の異所萌出の修正
彼らは大量のデータを提供した。私は彼らが評価した状況に尊敬の念を以って要約する。
Ⅱ級の成長改変
骨格の成長において早期治療による結果は小さく、臨床的に有意な効果を示さなかった。これらの変化は第Ⅱ期治療の終わりあるいは治療の最終段階までは持続しなかった。しかし切歯の外傷をいくらか減少させていた。(私はすでにこれについて投稿しているNovember 28, 2013)
Ⅲ級の成長改変
フェイスマスクでの前方牽引はある程度の骨格的変化を示した。ANBにおいて3.12°の差である。私は臨床的には有意であると思う。(これについてもフェイスマスクでの前方牽引後の外科矯正手術の必要性に注目した素晴らしい研究をすでに投稿した。September 5, 2016)
片側性臼歯部交叉咬合の改善
彼らはクワドへリックスと拡大床装置が高い割合で交叉咬合を改善すると示している1編の研究を見つけた。
予防的抜歯
彼らは、下顎切歯の叢生の進行を緩和する乳犬歯抜歯の効果をみた研究を一つ見つけた。ここでincisal irregularityはコントロールでも抜歯群でも見られたが、それぞれ 1.27 mm (SD=2.4) and 6.03 mm (SD 4.44)だった。しかし、抜歯群でのirregularityの減少は歯列弓長の減少という対価を払っていた。
位置異常の乳犬歯の位置の改善
この領域では多くの試行を見つけられなかったことが興味深かった。Baccettiによるフェイスマスク前方牽引についての研究に言及した。RMEで拡大して牽引すると犬歯の萌出においてほぼ50%増加したと述べている。しかし、症例報告だったのでデータの分析はできなかった。
彼らはGRADE法を用いてこの研究のエビデンスの質を「低い」から「中等度」に分類した
私はどう考えたか?
これはRCTだけを含む良質なシステマティックレビューである。私はすべての矯正歯科医がこの興味深い論文を読むべきだとお勧めしたい。
すべての研究と同じように、ここにも対処すべきいくつかの論点があります。たとえば、著者らはこれらの研究が大学や病院で行われていることを指摘しました。結果として、世界中の診療形態に反映できないかもしれず、2次的ケアを提供する病院のようなところを代表しているだけかもしれない。彼らはまたこの重要な質問への答える助けのために更なる試行が必要であることを示唆した。
私は早期治療の提供を支持するエビデンスはほとんど見つからなかったことも重要だと思います。 そればかりでなく、これは「証拠の欠如が、治療効果の欠如の証拠」であるかどうかを私に検討させている。 言い換えれば、治療の効果があるかもしれないが、方法論的な問題のためにそれを見つけだせなかったともいえる。 今週末のブログ記事で話を広げるつもりです。
今後の道筋は?
早期に治療を提供するこのすべての領域は興味深く臨床的にも重要だ。なぜなら重度の不正咬合の進行を途中で阻止できるとしたら素晴らしいことだからだ。しかしながら、すべての治療が、関連するリスクと追加費用に関してその患者にとって相当な対価を払うことになるということも思い出すべきだ。さらにまた我々は、患者が成長するまで待てばより効果的な治療になるか、そして1段階治療で患者の問題が解決するのか考慮しなければならない。
この視点で、私は非常に面白いFacebook上のケースレポート(The Pragmatic Orthodontist: Clinical Discussions非公開グループ)を見つけた。矯正歯科医は自分の治療を見せたくて、他の人々からのコメントは敬意に満ちていることが明らかだ。我々はまた、アメリカの矯正歯科のフィロソフィーが世界の他の地域とはかけ離れていることも思い出さねばならない。あなたは、この患者は若干感じられるクロスバイトの進行があり正中離開を伴う正常な切歯の萌出をみることができる。いくつかの国の術者は単純に更なる進行を観察するだろうし、他の国では矯正歯科医が臼歯部交叉咬合を改善するし、あるいはその治療を一般歯科医に依頼することもあり、あるいは同じ症例でも更なる治療としてHaasタイプの拡大装置を使い、上顎にブラケットを付けて2枚のセファロ撮影を行う。私は誰が正しくて誰がこの問題に対処するのか議論を始めるためにこれを示した。
結局、私たちはこの領域の更なる研究が必要であると結論できる。患者にとって適切なアウトカムを使った矯正専門医によって進行中のトライアルによって我々はこれを行うことができる。これらは偉大なる矯正歯科学の研究である。もし誰かがそんなことしたいならびっくりするけれど、私たちは単純に治療の基本を臨床経験と、噂とFacebookに置きたいと思いますか?
Emeritus Professor of Orthodontics, University of Manchester, UK.